国道の標識があるのに、車道ではない。登山道なのに国道の標識がある。
福島県の西白河郡には、登山道なのに国道289号線として認定されていた道路がかつて存在しておりました。
ここは甲子温泉 旅館大黒屋。実はこの旅館の前のこの道も、国道でした。
山側に向かって少し歩くと、見えてきたのが車道終点に立つ国道標識と甲子山登山口の案内標識。
国道289号線はここで終わりではありません。目の前に架かる細い橋、その奥の階段部分も国道です。
阿武隈川の清流からマイナスイオンを浴びながら、甲子山登山口から歩くことほんの2分足らず、登山道に備え付けられた国道289号線の標識が見えてきました。しかもその標識は木の棒に取り付けれているという不思議な光景。酷道マニアという言葉がありますが、まさにそれに相応しい光景でした。
本日の目的地はここに設定していたので、この先の登山道には進んでいません。もしかしたら、この先の登山道にも国道の標識があったのかもしれませんが、今となっては闇の中です。なぜなら甲子道路が開通したことにより、この登山道は国道ではなくなり、国道標識は今では撤去されているからです。
国道289号は新潟県の新潟市から福島県中通りの白河市を経由していわき市を結ぶ一般国道で、日本海と太平洋を結ぶ道です。その中の一部分、福島県の甲子峠付近では、山奥の豪雪地帯であるため工事可能なシーズンが短いことに加え、甲子大橋では施工上のミスにより橋桁が傾いてしまうなどの要因が重なり、甲子道路の工事が遅れました。2008年9月21日に甲子道路が開通するまでの間、この甲子峠区間は歩道でしか結ばれていない点線国道として存在していたのです。
開通の約1か月前の甲子大橋には進入防止策が設置されておりました。橋の奥に見えるの福島県でで一番長いトンネルの甲子トンネルで全長4345m。
かつて登山道に国道の標識があった場所、甲子山登山口までの道のりは、福島県白河市内からは車で30分ほど。会津若松市からは、開通した甲子道路を通って1時間ほどです。
甲子登山道で国道の標識を見た帰り道、訪問当時は甲子大橋が未開通のため、白河市方面へ戻ろうとトンネルを1つ超えた先で、またもや不思議な光景が飛び込んできました。
トンネルの入り口の左側に、トンネルの入り口がもう一つ。写真では左側のトンネルが少し小さく見えますが、どちらも車が走れる片側1車線のトンネル。歩行者用でもなく緊急避難用のトンネルでもありません。
よく見ると、現在通れるトンネルは「きじたきトンネル」で、通行止めとなっているのは「石楠花トンネル」。
国道289号線の甲子大橋の東側は、もともとは白河市側からみて「きびたきトンネル~第一片見橋~片見トンネル~第二片見橋~石楠花トンネル」の3トンネル2橋梁のほぼ直線ルートでした。しかし台風による豪雨により、石楠花トンネル付近で地すべりが発生。その損傷が激しかったため、補強工事を諦め、別ルートを開拓することに。その別ルートが、白河市側から見て、きびたきトンネルに入った後のトンネル内部で山側に左カーブを掘削し、ねじ込むように新しいトンネルを掘削、第一片見橋から石楠花トンネルまでの2トンネル2橋梁部分を封鎖し、石楠花トンネルの横にきびたきトンネル出口を新しく作りました。つまり、もともとの3トンネル2橋梁構造は、きびたきトンネル1つとして新ルートに生まれ変わったのです。
Googleマップで見ても、きびたきトンネルは途中で曲げられたかのように作られています。本来は直線ルートで、そこにはかつて、第一片見橋~片見トンネル-第二片見橋が存在していて石楠花トンネルも使用されていた、なんてことは現在の地図からは読み取ることはできませんよね。以上、福島県内の国道289号線にまつわる2つの不思議な光景でした。